イヌの痴呆(ボケ)
☆ 明確な定義はないが、一つの目安として「高齢化に伴い、いったん獲得した学習及び運動機能の著しい低下が始まり、飼育困難になった状態」という定義がある。
☆ はっきりとしたメカニズムの解明はされていないが、脳の組織変化から、普通の老化より老人斑(?―アミロイドタンパク質の細胞内蓄積)が脳内に強く見られる傾向がある。これが、認知機能障害の発症と関連すると言われている。
☆ 老人斑は大脳の前頭葉に強く起きるとされ、この部分がコントロールしている学習及び記憶障害に関連しているようである。
☆ 日本での発症例は明らかに犬種差が見られ、約8割以上が柴犬及び日本犬系雑種で占められている。原因ははっきりしていないが、血中の脂肪酸の一部が痴呆を発症した日本犬系では明らかに減少していることが解っている。従って、脂肪酸を給与することで改善することも判明している。(メカニズムは不明)
☆ イヌの痴呆と人間の痴呆が同じかどうかは不明。
☆ 人間の痴呆には「血管性痴呆」と「アルツハイマー性痴呆」があり、イヌでは「血管性痴呆」と「イヌ痴呆」(アルツハイマー性と類似しているが、そうとは言い切れないため)と呼ばれています。
☆ 海外では痴呆とは表現せず、「イヌの認知障害」(Canine Cognitive Dysfunction Syndrome/CDS)と表現され、軽度なものからが含まれている。
<症状>
☆ 一般的には徐々に進行していくが、病気の悪化、麻酔、鎮痛剤、環境急変などが引き金となり、急に出現したり悪化したりすることがある。
☆ 症状が出現して放置しておくと、数ヶ月から1年以内に死亡するケースが多い。(数年生存することもある)
☆ 非常に穏和な顔になる。
☆ 抑揚の無い大きな一本調子の鳴き声が意味も無く続く。
☆ 夜中に放浪し、狭いところに入り込んで鳴きわめく。
☆ 昼はほとんど寝ているのに夜起きだす(鳴きだすケースが多い)。(昼夜逆転)(生体時計が狂っている)
※ 痴呆で大きな問題になる異常な鳴き声のメカニズムは全く解っていない。
※ 夜中から鳴きだすことが問題の大きなポイントだが、これは生体時計が狂い昼夜が逆転してしまうことも考えられます。生体時計は脳の松果体の機能が関連しているともいわれ、その分泌物であるメラトニンを給与すると改善することがある。(松果体の機能低下が一つの要因の可能性がある)
☆ 飼い主の識別ができなくなる。
☆ 何が起きても反応せず、表情も変わらなくなる。
☆ トレーニングしたことを全て忘れる。
☆ とぼとぼとした前進歩行のみになり、多くは円を描くように歩行する。(旋回運動)
☆ 部屋の隅で動けなくなり鳴きだす。
☆ 食欲旺盛でいくら食べても下痢もせず痩せてくる。
<注意点>
☆ 多臓器疾患を引き起こしていることが多いので、併発疾患の管理に注意する。
☆ 口腔疾患がある場合、食べる動作をしているだけの場合があるので水や餌の残量に注意する。
☆ 脊腰椎疾患がある場合、食器の位置が低いと物理的に食べられない場合がある。
☆ 歩行可能ならできる限り散歩をさせる。
☆ 散歩は定刻に行った方がよい。(排便排尿も定刻にするようになる)
☆ 晴れている日は日光浴をさせたほうがよい。(体内時計を調整する効果がある)
☆ 夏場の日光浴は熱射病に注意。
☆ 冬場の室温は人間が少し暑いと感じる程度にする。(体温調節機能が低下している)
☆ スキンシップを充分にとる。(視・聴覚が低下するのでスキンシップで人間を確認させる)
☆ スキンシップは触る順番を決めておき、常に同じにする。
☆ 攻撃性は全くないが、突然触ったりすると反射的に咬むことがある。
☆ 攻撃性が見られる場合には、どこかに激痛があることが多くまれに脳腫瘍の場合もある。
☆ 全ての管理はできる限り定時におこなう。(できれば一人の人が管理をするのがベスト)
☆ できる限り入院は避ける。(環境変化で病勢が急速に悪化し、死亡することがある)
☆ やむを得ず入院させた場合は、最初の数日は無理なことや検査などはせず、行動の特徴などをよく観察すること。
☆ 保定などで無理に押さえると、考えられないような力で暴れる。
☆ 簡易な検査や注射などは寝ているときに無保定で可能なことが多い。
☆ 心電図も眼を覚ましている場合、良好な記録を得ることはほとんど不可能。
<飼育環境>
☆ 角張ったケージは不向きなので、柔らかいもので円形に自作してあげる。(風呂マットなどを工夫して作成)
☆ 部屋の障害物をできるだけ取り除いてあげる。
☆ 寄りかかりながら歩行することが多いので、囲いが倒れない工夫が必要。
<特徴>
☆ 身体が汚れることを非常に気にする感覚が残る。(尿や便で汚れると鳴きだすなど)
☆ サークル内では、内壁に寄りかかりながら歩行することが多い。
☆ うまく手なずけると非常に可愛い状態に変身するが、扱いによっては逆もあるので充分注意して扱うことが重要。
<飼い主からの稟告>
1位 呼び名が分からなくなった
2位 食べたことを忘れる。いくらでも食べる
3位 よく眠る
4位 とぼとぼ歩き続ける
5位 夜中から明け方に鳴く
6位 意味もなく鳴きだし止らない
7位 狭い所に入りたがる
8位 臭気のみ分かる
9位 トイレの場所が分からなくなる
10位 尿を漏らす
<イヌの簡易痴呆テスト>(13歳以上)
1.夜中に意味もなく単調な声で鳴き出し、止めても鳴きやまない
2.歩行は前にのみとぼとぼと歩き、円を描くように歩く(旋回運動)
3.狭い所に入りたがり、自分で後退できないで鳴く
4.飼い主も自分の名前も分からなくなり、何事にも無反応
5.よく寝てよく食べて、下痢もせず痩せてくる
※ 2項目以上当てはまるようなら痴呆と疑われ、「痴呆犬診断基準」で判定した方がよい。
この内容は、ANIMAL NURSE April2002〜August2002から抜粋したものです。
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