股関節形成不全(Hip Dysplasia/HD)
みなさん、股関節形成不全という病気をご存知ですか?
欧米を始め、日本でも近年問題視されているイヌの遺伝病です。(後天的なものもあります)
この病気は、軽度のものでは外観上では判断がつかないことが多く飼い主が気づかないケースも多々あるようです。その結果、イヌの苦痛に気づかずに可愛そうな思いをさせてしまうことがあります。
みなさんに少しでもこの病気を知ってもらいたくこのページを作成しましたので、お役に立てれば幸いです。
重度のHD (ジャーマンシェパードドッグ) 正常 (ジャーマンシェパードドッグ)
「疾病の発見」
1935年にアメリカのジェネル氏によって、軍用犬のシェパードで報告されたのが始まりで、日本では1960年に最初の報告があったそうです。
「別名」
この病気は、「股関節形成異常」「股関節異形成」「股関節半脱臼」などとも呼ばれており、略してHDと呼ばれることも多いです。
「原因」
約70%は遺伝(複数の遺伝子が関係しているので、両親がHDでなくても発症する可能性がある)によるもので、約30%は後天的な要因が考えられるといわれています。
後天的な要因の主なものは、肥満によるものが多く、その他運動や外傷による場合もあるといわれています。(蛋白質、特別なビタミン、ミネラルの過剰摂取も問題)
※ 遺伝によるものが主なので、HDのイヌを繁殖には用いないことが重要である。
(日本以外のイヌの先進国では、システムが確立されており、特にスウェーデンでは管理がしっかりしていて、確実に成果を上げている)
「外観による兆候」
もし、次に挙げる項目に該当するようであれば診断を受けることをお勧めします。
但し、日本ではまだまだこの分野への取り組みが進んではいないため、正しく診断できない獣医師も多いと聞くので、しっかり診断できる病院を探してから見てもらってください。
1) 正しいお座りの姿勢ができず、あぐらをかいたり、横座りしたりする
2) 起きた時の立ち上がる動作がのろく、痛そうにしている
3) 階段の昇り降りを嫌がり、痛そうにしている
4) ジャンプを嫌がったり、高いところに飛び乗れなかったりする
5) 歩様時に、後肢の歩幅が狭く。踏み出しの前肢が円を描く(真っ直ぐに出ない)
6) 後望して、牛の尻のように骨盤が太く大腿の筋肉が痩せている
7) 走り出す時にウサギ跳びのような動作をする
8) 幅跳びやジャンプを嫌がる
「現状」
アメリカでは、15〜20%のイヌがHDであるといわれており、日本では、約35%のイヌがHDであるといわれている。
更に特定の犬種においては50%以上がHDともいわれているのが現状だそうです。この数字を見て驚かれる方も多いかと思いますが、決して大げさな数字ではありません。
「診断」
歩様や触診、神経系除外診断などもあるが、レントゲン撮影が最も有効である。
症状の発症は生後まもなくから出現し、生後3ヶ月で約25%、生後6ヶ月で約50%、生後1歳で約85%、生後2歳で約97%が診断可能である。
「専門研究機関」
現在、日本には専門の研究機関は存在しないので、ここではアメリカのものを紹介します。
<OFA>(Orthopedic founation for Animals Inc)
アメリカのミズリー州にある非営利団体で1966年に設立された。
設立の目的は次の4つが挙げられる。
1) 動物の整形外科疾患に関する情報公開
2) 遺伝性整形外科疾患の発生を低下させるための計画繁殖を奨励、助言、確立させる
3) 動物の、整形外科疾患の研究の奨励と資金援助
4) 目的遂行のための資金運営
※ この目的を実践するために全ての犬種の、股関節の診断と登録を行っている。
<診断結果>
7段階のランクで評価し、(3)までは正常の評価で、OFAの登録メンバーになることができる。
1) Excellent
2) Good
3) Fair
4) Borderline (ボーダーライン)
5) Mild Hip Dysprasia (軽度のHD)
6) Moderate Hip Dysprasia (中度のHD)
7) Severe Dysplasia (重度のHD)
<OFAへの診断申込み方法>
1) 日本の動物病院で撮影したレントゲン写真をOFAに送付(撮影の時にHDの検査のために必要であることを獣医師に伝えること)
2) OFAでチェックをし、診断に適さない写真の場合は返却されます
3) 適した写真は3人の専門家によって入念に診断され、異常がある場合は診断書に記入される(診断は15〜20日くらいかかる)
4) 診断書はイヌの所有者と獣医師にそれぞれ送付される
5) 2歳以上で正常と診断されたイヌには登録ナンバーが与えられる、犬種にもよるがそれぞれの犬種リストに掲載される(リストは各犬種のクラブを通じて誰でも入手できる)
<レントゲン写真の送付方法>
1) 申込み用紙に必要事項を記入する(申込み用紙はOFAから送付してもらえる)
2) 必要事項は、犬名、登録ナンバー、犬種名、生年月日をローマ字で記入し、イヌの所有者とレントゲン撮影した獣医師のサインを入れる(レントゲン撮影時に麻酔をしたか否かも記入する)
3) 郵便局で診断料の郵便為替を作る(2歳以上は25ドル、2歳以下は20ドル)
4) 申込み用紙と、レントゲン写真、郵便為替を封筒に入れ郵送する
<OFAの住所>
Orthopedic founation for Animals Inc
2300 E.. Nifong Blvd Columbia, MO 65201-3856
U.S.A
п@314−442−0418 FAX 314−875−5073
「OFAのHP」
<ICG>(International canine genetics)
ペンシルバニア大学の何人かの先生が専門的にHDの研究をしており、この研究を導入している機関がICGである。この団体はイヌの遺伝子の研究をしている民間の企業である。
<ICGのレントゲン撮影方法>
PennHIP(ペンヒップ)ディストラクション・テクニックという新しい撮影方法で撮影。(ペンヒップのペンはペンシルバニアに由来しているそうです)
「対策・治療」
<軽度>
まず運動制限をし、体重増加に注意を払うことが大切である。これで、症状の進行が見られなければ筋肉がつくまで様子を見る。
もし、痛みがあるようであればアスピリンのような痛み止めや、非ステロイド系の炎症を和らげる薬などを投与して痛みを抑えるようにしてあげる。
これらの治療で改善されない場合および症状が重い場合は外科的な治療をする。
<外科的治療法>(理想は生後5〜10ヶ月くらいにおこなう)
「恥骨筋切除術」
恥骨筋を切除する手術で、恥骨筋が緊張していると股関節が押さえられてしまうために痛みが生じるので、これを取り除くことによって痛みをなくす。
「大腿骨頭切除術」
大腿骨頭そのものを切除する手術で、この場合には取り除いてしまうのでかわりに偽の関節(インプラント)をつけて歩けるようにする。
インプラントを取り付けた状態です
※ これらの手術は、あくまでも症状を取り除くためのもので、完全に治るわけではありません。(再発も多々あり、アメリカのデーターでは約5%のイヌが再発している)
※ ここでの内容及び写真は、下記に記した学会で発表されたものです
2000年6月4日
「介助犬の基礎的調査研究班平成12年度ワークショップ」
「股関節形成不全の臨床」の発表
川瀬 清 (川瀬獣医科病院)
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